2026年1月18日日曜日

ミネソタ州ミネアポリス近郊でのICEをめぐる混乱と現状

2026年1月7日、移民関税執行局(ICE)捜査員による女性射殺事件が起こった。それをきっかけに、ICEと市民との衝突が激化している。混乱が続いているが、本稿では可能な限り事実ベースで状況を整理する。



以下は筆者の現地での見聞および公開情報に基づく整理であり、評価については個人的見解を含む。政治的な話題なので、そういうものを好まない方は読まないでください。

 

 

前提状況

アメリカは二大政党制で、民主党(リベラル)と共和党(保守)に分かれている。ミネソタ州は、とくに都市部で民主党が強い。大統領選などではほぼ常に民主党が票を獲得するし、現州知事のTim Walz も民主党。しかし、10分も離れると畑が広がり、「Trump」「Charlie Kirk」といった看板を多く見かけるようになる。

Charlie Kirk は昨秋、銃撃事件で死んだ右派インフルエンサー。銃の保持に賛成しており、先の大統領選でトランプの票の獲得にも大きな役割を果たした人物。ディズニー傘下の放送局で、Kirk に批判的な発言をした番組に対して、FCC(アメリカの無線・放送行政を司る)が、「中立的でない」として放送免許の取り下げを示唆→番組の無期限中止→ディズニーサブスクの大量キャンセル、という事件もあった。現在は番組は再開。

権力側が「中立的ではない」という理由で放送停止の圧力を掛けるのは、日本に限らず、万国共通だ。

ミネソタの現州知事のTim Walzは、先の大統領選挙で、Kamala Harris 候補の元での副大統領候補。Harris は Biden 政権の副大統領だったが、Biden のリタイアで大統領候補に繰り上がった。

というわけで、Trump にとって Walz と Minnesota はそういった対立の経緯がある。

 

Trump による対移民政策

Trumpは就任当初から、外国人・移民排除の政策をとっていた。カリフォルニア(民主党)では農業労働として不法を含む移民に労働力を依存している状態で、移民をICEなどを使って強制排除した結果、作物の収穫が出来ずに、野菜や果物の価格が高騰。しかし、Trump は、それを推し進めるために、大金を積んでICE 職員を大量増員。私がネットを見ているときにも ICE職員募集の広告がよく出てくるようになった。年収$200k(3000万円)で、さまざまなバックグラウンドの人が大量に応募している状態。

 

ソマリア系移民による保険金搾取 

2025年12月に、ミネソタでの一部のソマリア系移民による保険金の不正利用が指摘される事件あった。実際には使っていない社会保障サービスを不正に申請していた、というもの。Trump はミネソタ州に対する連邦政府からの一部の社会保障の資金を凍結。州側は正当な社会保障への影響を懸念し反発したが、不正受給があったのは事実。Walz は次回の州知事不出馬を表明。 


ICE捜査員による女性射殺事件

チャンスとばかりに Trump は大量の ICE職員をミネソタに投入。

ヒルトンホテルが ICE 職員の予約をキャンセルするなどして、民間レベルでも小競り合いが発生したり、不穏な状況があった。

その中でのICE職員による女性射殺事件。Trump 側は捜査妨害・正当防衛を主張しているが、SNS時代、動画が拡散しており、車をゆっくりと動かしている女性を、ICE職員が正面方向から発砲しているように見える映像が確認できる。

それ以外にもICE職員が高校や外国系スーパーに立ち入る様子を映した動画も、SNS上で拡散されている。

 

私自身も、ミネアポリス市街に車で出かけることがあり、ICEの活動を実際に目撃したことがある。目を合わせないように、極めてゆっくりと、その場を離脱した。近所には地域の住民が警戒のホイッスルを吹き、スマホで動画を撮影している。また、道路標識の看板には「ICE」という警告書きがなされていた。ミネアポリスにはミネソタ大がある。大学院では半数近くが留学生でもあり、友人たちも恐怖を感じている。

私は参加していないが、そのような情報を共有する Signal上のグループがあるとのこと。 

 

プロテストと暴徒化のリスク

射殺事件をうけて、ミネソタでは抗議行動(プロテスト)が多発。

少し前に、ミネアポリスで、黒人が警察官に暴行をうけて死亡した事件があった。それに反発してBLM(Black Lives Matters:黒人の命も大切)という抗議行動が激化した。その時は、州外からも活動家が押し寄せて、それらの扇動により、抗議活動が暴徒化した。レストランや商店は窓ガラスをベニヤ板で覆って防御したり、閉店したり。

今回の抗議行動でも、南部の州(共和党が多数)から右派の活動家が合流しているので注意するような通知が届く。Trump や ICEに対する抗議なのに、なぜ右派?という感じだが、抗議行動を暴徒化させて、軍事介入の機会を伺っている、との報道もある。その先には、戒厳令の発令と支持率が低下中のもとでの中間選挙の中止の狙いがあるとされる。

州側は、地域警察、ナショナル・ガードと共同して、平和的な抗議行動を呼びかけており、現時点では、暴徒化はしていない。

Trump 側は、捜査妨害という口実で Walz やミネアポリス市長の Frey の捜査を命じた。しかし、複数の連邦捜査官が、政権寄りの捜査命令を不服として辞任。 


勤務先での状況

基本的に日系の企業であるし、政治的な対立は業務には不要である。不気味なぐらい、この件に関する話題は、職場では話されない。まるで何事も無かったかのような、日常会話ばかり。 

勤務先でもICEがやってくる可能性がある。管理部門が示した基本的な対応は、私有地なので裁判官の署名入りの捜査令状が無ければ侵入を拒む権利があり、それを主張しつつ、ドアを開けずに、弁護士を呼ぶ、という対応が指示された。しかし「法執行機関(ICEのこと)からの捜査は受け入れるべきだ」というような声が上がったりもしていて、油断ならない。日系の企業であっても、そういう状態。 

 

日本での反応 

ネット上でしか知ることができないが、日本での反応は非常に薄いように感じる。

現政権が Trump べったり、ということもあり、何もコメントできないのかもしれない。在米大使館からの連絡でも、抗議行動のトラブルに巻き込まれないように、という一般的なものだけだ。在外邦人の危険という状況に関心がないのか、自身の政局で忙しいのか。

もしかしたら「対象は不法移民だけで、合法的に滞在している日本人には関係なく安全だ」と思っているのかもしれない。

現実は、非白人な見た目をしているだけで、捜査・拘束対象となるし、捜査官の機嫌を損ねただけで射殺されるリスクがある。射殺されたRenee Nicole Goodさんは米国市民の白人女性だし、上述のようにICE捜査官の素性は不明なのだ。 

 

 

日本でも排外主義が台頭してきている。そういった人々は、実際に迫害される側の人間のことは想像できないのだろう。不法移民を取り締まる Trump や ICE に喝采を送る「愛国者」のコメントが多くみられる。その主張は「悪い外国人」を排除しろ、というものだったりして、もっともなことを言っているように聞こえる。「治安」や「秩序維持」の観点から正当化されやすい。アメリカでも、右派からは、不法入国者を捜査・逮捕しているだけで、今回のICEの行動は正当なものだ、という主張がなされている。しかし、これは非常に危険だ。

犯罪者は国籍によらず罰する。そこに見た目や国籍は関係ない。

「悪い外国人を排除しろ」に「外国人は怖い”感じがする"から排除しろ」になる。攻撃対象は、外国人だけでなく、帰化した日本人、そして政府の意に沿わない主張をする人々に、容易に拡大される。排外的な政策や言説が、当初は治安維持を理由に正当化され、適用範囲を広げていく例は、大日本帝国時代の日本であったことだ。現在ミネソタで起きている事象は、そうした過程を考える際の一つの事例として捉えることもできる。「新しい戦前」である今の日本での近未来かもしれない。

 

2 件のコメント:

  1. 日本に入ってくるニュース報道だけでは、憎悪の根底にある真の理由がわからず(近所に移民がいない生活も理由の一つかな)、自分も含めて緊張もせず・ぼんやり道を歩き続ける人になってます。日本の近未来は確実に迫ってきてますよね。

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    1. コロナ禍・トランプ禍のもとで、外国人として生活する、ということは、通常の日本での生活とは全く異なった体験で、モノの見方が大きく変わりました。日本でも政情が不穏な方向に進んでいる感じがあり、不安ですね。

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