1980年ごろから、カオスや複雑系など、予測不可能なことを理論化しようとする試みがなされてきた。本書は、同様に予測しづらい事象である、べき乗則(べき分布)についての啓蒙書である。人間の体重などは平均値の周りに分散する正規分布を描くことが多いが、地震の発生頻度と強さはべき分布に従う。小さい地震は頻度が高いが大きい地震は頻度が低い。しかし頻度は低くてもゼロにはならず、大地震は発生し、壊滅的な被害をもたらす。
地殻のプレートが運動してその歪が開放されて地震が発生すると考えられている。プレートの動きは一定なので、ある程度の歪が貯まれば開放されて、周期的に大地震が発生するという考え方もあった。しかし統計データによってそれは否定されている。歪が開放されるエネルギーはべき乗則に従う。大きな開放は小さな開放と全く同じで、発生頻度が違うだけ。大きな地震は頻度は低いが周期的には発生せず、予測は不可能だ。地震のべき乗則は岩石の壊れ方のべき乗則からきており、根本的には壊れた破片の大きさスケールに関する自己相似性(スケール不変性)が原理となっている。
この現象(べき乗則)は自己組織的な臨界状態を持つ構造に対してトリガーがかかって連鎖反応が発生するメカニズムによって発生し、そこらかしこで見られる。それは、自然科学の分野に限らない。株価の変動、都市の人口分布、資産分布、論文の引用数など、人間社会のあちこにも見られる。
そして、戦争の死者数と頻度の関係もべき乗則に従う。歴史家によれば戦争の原因は色々あるだろうが、統計的には、戦争は結局起こる。小さい戦争は度々、大きい戦争も希に。それは、戦争の背景にも根本的な一つの原因があり、それがスケール普遍性を持っていることを示している。世界大戦は特別な原因で発生する特別なことではない。確率的に少ないが必ず発生する、単なる戦争の一つなのだ。地震の比喩でいえば、なにかのきっかけで争いが発生し、それがどこまで大きくなるかは確率による。
過去の読書記録はこちら
https://cold-darkstar.blogspot.com/search/label/%E6%9C%AC
https://booklog.jp/users/nkon
http://park11.wakwak.com/~nkon/misc/book/
0 件のコメント:
コメントを投稿