2024年7月7日日曜日

七夕と暦

先日、雑談で暦関係のことを話していたら「ブログにまとめろ」と言われた。一時帰国をしていたりで、結局6月は一本も書かなかったので、書いてみよう。

 

2021年6月10日、グランドキャニオンにて夏の大三角方面。天の川、こと座(中央上)、わし座(右下)、はくちょう座(中央左)、天の川(中央を左右に)。クリックで拡大

 

 

伝統的七夕

これを書いている7月7日(米国時間)はよく知られているように七夕である。これについて「伝統的七夕」として旧暦の七夕の日に夜空を見上げてみようという提案がなされている。日本の現在の暦では7月7日は梅雨時で夜空が見れない、というのがもともとの動機であるが、 七夕伝説の元となった星空と旧暦(太陰太陽暦)を考えるきっかけにもなる。

  • 太陽暦の7月7日は日本では梅雨で曇っていて星空が見えない
  • 太陰太陽暦の7月7日の夕方、半月が西空に沈み、これを船に見立てて、天の川を渡り彦星と織姫が逢うという伝説の元となったという説がある。

太陰太陽暦では新月の日が1日なので7日は上限の月となり、夕方には弦を上にして月が西空に沈む。

川を渡るのは月の船ではなくカササギに乗って、という別の七夕伝説もある。

大阪府枚方市、交野市には「天野川」という川があり、地元では七夕伝説をもとにした町興しが行われている。天の川には「鵲橋」がかかり、上流では「ほしだ園地」に「星のブランコ」という橋がかかっている。

 

旧暦(太陰太陽暦)

もともとの暦の発生として、太陽(と地軸が傾いていることによって引き起こされる季節の変化)をもとにした太陽暦と、月に満ち欠け(朔望:朔=新月,望=満月,両方とも部首に「月」)をもとにした太陰暦がある。1月、2月…とあるが、これは、月の満ち欠けからきたものだ。

1太陽年(地球からみた太陽の動きの周期)=365.242189日

1年を365日として、4年に一度を閏年として366日とすると、平均で365.25日。これだと若干長くなる。100年に一度、閏年でなくすると、365.25-0.01=365.24日。短くなってしまった。400年に一度、閏年を復活させると365.24+0.0025=365.2425日。だいたい一致した。これが現在のグレゴリオ暦の閏年の入り方。グレゴリオ暦は1532年にローマで制定された。つまり、このころにはすでに、この精度で太陽年が求められていたということだ。それでも天動説が信じられていた。

1朔望月(新月から新月まで)=29.530589 日。だいたい29.5日。

つまり、月の朔望(満ち欠け)をもとにした太陰暦では、一ヶ月は29日(小の月)または30日(大の月)。29日が6回、30日が6回とすれば、12ヶ月で29x6+30x6=354日。365日からは11日ずれる。つまり約3年たてば、月と年がずれる。それを補正するために、1年が13ヶ月の年が約3年に1回生じ、挿入される月を「閏月」という。たとえば、10月のあとに閏10月が来る、といったような。挿入規則は後述。こうやって太陽の動きに補正した暦が太陰太陽暦。月の始まり(1日:ついたち)は新月となる。

日本で旧暦が使われていた時代の話を読むときに、特に夜の場面では、日付から月の形や位置を想像すると、物語の解像度が上がる。例えば、赤穂浪士の討ち入りは12月14日で、ほぼ満月であり、晴れていれば一晩中、月明かりに照らされていることがわかる。近年は創作においても、日付と月相などの天文考証がきちんとなされている作品が増え、物語のリアリティを増している(一例 https://rna.hatenablog.com/entry/20200107/1578407220)。一方、こういった考証の手間が増えすぎてきて、みなさん、異世界に行くことが多くなってしまったのだろうか。

上述のように西洋・キリスト教世界では早期から太陽暦が用いられていたが、東洋・中国・日本では太陰太陽暦が長く使われていた。今でも中国文化圏では「旧正月」を祝う。英語ではChineese New Yearというのかと思ったら、最近のアメリカ英語ではLunar New Yearということが多い。中国以外の国(韓国、シンガポール、ベトナムなど)でも旧正月を祝うので、文化的中立の流れなのだろう(Independence DayではなくJuly Fourthと言うような)。

旧正月の定義

太陰太陽暦では、太陽の動きを、春分を基準に1年を24分割した24節気というものが用いられる。一般に春分とは、昼と夜の長さが同じ日として理解されているが、より精密には、太陽(黄道)が天の赤道を南から北に通過する日、というのが定義。

春分を始点として、春分、清明、穀雨、立夏、小満、芒種、夏至、小暑、大暑、立秋、処暑、白露、秋分、寒露、霜降、立冬、小雪、大雪、冬至、小寒、大寒、立春、雨水、啓蟄。太陽を基準にしているので、季節感のある名前が味わい深い。また、太陽暦のもとでは24節気の日付は毎年、ほぼ同じになる。ここで「雨水(だいたい2月19日)」を含む月が1月、その直前の新月が「旧正月」。

上の24節気の中で奇数番目のものを中気といい、どの中気を含むかで月を割り当てる。中気〜中気=365/12=30.4日なので、朔望月(29.5日)よりも長い。そのため、ときどき、中気を含まない月が発生することになる。この月が「閏月」となる。

これらは、わかりやすさのために、かなり端折った話であり、興味があり、より詳しく知りたい場合は、他の文書を参照して欲しい。

 

西洋の月の名前

ローマ文化圏では太陽暦が古くから使われていたが、月には個別の名前が付いている。

Wikipediaによると、古代ローマ暦では1年は3月始まりで軍神Marsの名前が付いている。月は10月までで残りは月の名前がなかった(農閑期だったのでカレンダーが不要)。そのために9月がSeptember(7の月)、10月がOctober(8の月)のように2つずれていて、年末の2月は端数で日数が少なく、閏年の日数が調整される。 その後、年始が1月に変更される(理由不明)。

だいぶ時代がすすみ、カエサル(Julius Caesar)がユリウス暦(4年に1回、閏年になる)を採用したときに7月に自分の名前をつけた(なぜ7月かは理由を探せなかった)。閏年の計算を修正した、後のアウグストゥス(Augustus)にちなんで没年の8月をAugustに変更し、もともとは小の月だったのを大の月に変更した(この節は現在は疑問視されている)。

上述のように太陽年のズレを補正するために後にグレゴリオ暦に改められた。 


記法

アメリカでは、日付を記すときに、2024年7月4日だと、7/4/24と書いて、July Fourth in twenty-twenty-four と読む。

  • 月/日/年の順
  • 7月と書いて「文月」と読むようなものだ 
  • 日付は序数となる
  • 年は2桁が一般的。2000年問題の教訓…

日付を序数で呼ぶことについて、5月4日はMay Fourthとなり、“May the Force be with you.”(フォースと共にあらんことを)にちなんでスター・ウォーズの日であることは有名だ。

インドやイギリスでは4/7/24のように、日/月/年の順だ。読むときは Fourth of July。もちろん、日本では24/7/4のように年/月/日の順番。アメリカ人はアメリカの文化が普遍的と考え、それ以外を想像さえできない人が多い。しかし、多少とも文化的多様性に配慮する人だったり、混乱を避けたい場合には、July 4th, 2024のように月の名前を文字で書くことがある。この場合、正しくは、スラッシュは使われずに、日と年の間にはカンマが入る。

また、打ち合わせの日などを調整する場合、日付で話す人は少数派で、「次の水曜日」など曜日で話すアメリカ人のほうが多い。

このように日付をスラッシュで区切って表すと、どれが月で、どれが日か、混乱が生じる。そのために、ISO 8601では、YYYY-MM-DDというように、ハイフンで区切って、年-月-日の順で記す方法が定められている。スラッシュで区切った場合は「文化的」記法であり、順序は文脈に依存する。ハイフンで区切った場合はISO記法であり、順序は定義されている。この記法と理解が浸透すればよいのだが、現実的には、気分で、ハイフン区切りで月-日-年のように書く人も多い。

私自身はYYYY-MM-DDの表記が望ましいと考えている。同様に、時刻を表す場合はhh:mmの表記を、時間を表す場合はHHhMMmの表記を好む。

同様にISO 8601ではコンピュータで日付を扱う方法についても定めている。一方でCなどの古い言語は独自に決めた方法で取り扱っているのでドキュメントを読むことが必要。歴史的システムではしょうがないが、これからはできるだけ標準を尊重するべき。

  • 年:西暦年を整数で表す。西暦1年は整数の1、紀元前1年は整数の0となる(天文暦)。
    • 一部のシステムでは年から1900を引いた整数で表すこともある。
  • 月:整数の2で月を表す場合、2月を表す。
    • 一部、3月を表す場合がある。0=January, 1=February, 2=Marchという、月を表す文字列の配列のインデックス(0始まり)のイメージ。
  • 日:日を整数で表す。整数の2は2日。
  • 曜日:月曜=1,土曜=6,日曜=7。これがISO標準
    • システムによって、日曜=0,土曜=6としたり、月曜=0,日曜=6としたり、グチャグチャ。
同様に、性別についてもISO 5218で決まっている。不明=0、男=1、女=2、9=適用不能。ポリティカルに炎上しがちなトピックだが、オレオレ定義ではなく、これも標準尊重でいきたい。さらに言えば、必要(医療など)な場合以外は性別を記録しない、というのがこれからは望ましい。
 

名前の表記

同様に、名前の記法も文化によって異なる。
 
よく知られるように、アメリカでは(英語圏では)  John Smith のように、名(Given Name) 姓(Family Name)の順序が一般的だ。通常、First Name/Last Nameのように言われるが、これは循環的定義だ。
 
一方、英語圏でも、日本以外のアジア系の名前は母国語の通り、姓-名の順に表記されることが一般的であった。例えば、毛沢東の場合、Mao Zedong。日本名を英語表記するときには英語風に名-姓と書かれることが多かった。しかし、近年、日本政府の公式見解として姓-名の順序を推進している。

結局、名前の表記を見たときに、どちらが姓でどちらが名ということは、文脈に非常に依存する。

このような場合、Smith, Johnのように、カンマで区切って姓,名で表記する方法がある。 この記法は英語圏を含む学術論文の世界で、欧米人を含む名前を表記するために、歴史的に広く用いられている方法であり、望ましい表記方法だ。日本人の場合、大佛太郎はDaibutsu, Taroのようになる。

DAIBUTSU Taroのように姓を大文字で表記する方法もある。

例→2024年のツール・ド・フランスの記事。ほとんどが西洋人。着順表ではDAIBUTSU Taroのように 姓(大文字) 名 の順に書かれ、 記事中ではTaro Daibutsuのように名-姓で呼ばれたり、二回目以降は Daibutsu のように姓で呼ばれる。

社外とやりとりをするときでも、コンピュータの登録名などが「姓-カンマ-名」となっている会社がグローバル企業では増えてきた。

ローカルな場面では相手の土着の文化を尊重することは重要だ。一方でグローバルな場面では特定の文化に依存しないコミュニケーションが必要だ。

勤務先では、アメリカに溶け込もうとする意図なのか、駐在時にアメリカ風のファーストネームを無理やり付けられる。文化的多様性を尊重する時代に、ぜひ改善して欲しいものだ。

一方、台湾では、子供のときから(幼稚園ぐらいの世代に、海外に出るなどまったく関係なく)英語風のニックネームを付けることが一般的らしい。「真名」とかの文化が背景にあるのだろうか。興味深い。

 

同様の話は過去にも「単位の話」として書いている。

2 件のコメント:

  1. 銭湯にアメリカ人のお客さんが来た時、お湯の熱さを聞かれます。華氏変換が咄嗟にできずに単位の多様性にこっそり毒づいてます(笑)

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    1. 熱でしんどい=100Fがだいたい38℃ですね。諸外国はSI単位なのですが、アメリカではほとんどの単位が異なるので苦労します。

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