ボーイング社は、エアバス社の小型旅客機に対抗するために、かつ新規機種の開発コストを避けるために従来機の737を改造して737MAXという旅客機を開発した。従来はエンジニアリングと品質に重きをおいていたボーイング社だが、アメリカ流の株主利益を最大化させる経営方針のために設計力、品質管理がおろそかになっていた。そんな中で開発された737MAXは従来機を無理やり改造してセンサと制御で飛ばすようになった。しかし、その制御システムの不具合により737MAXは短期間のうちに2度も連続で墜落する事故を起こす。その調査の過程でスケジュールとコストを守るためにFAA審査での隠匿なども明らかになった。本書はそのような、エンジニアリングと品質ではなく株価を第一の指標としたボーイング社の経営方針の変化が、事故および結果としての企業価値の下落を招いたと指摘する。さらにそのような経営方針の源流はGEにあるとして、GE流のコストカット、選択と集中などの経営が他の企業にも影響を与えていると指摘する。
その後も、737MAXは非常ドアが吹き飛ぶなど、設計だけでなく生産、品質管理の低下も止まらなかったし新機種の開発という開発経験の蓄積もできない状態だった。2024年、技術系のCEOが就任して、信頼回復を目指すという、今後の変貌が注目されている。ボーイングだけでなくインテルも同様な株主至上主義的な理由で経営が低迷した後、CEOが技術系のパット・ゲルシンガーが着任して改革しようとしていたが、AI波に乗れず志半ばで去った。
前に読んだTSMCの本での主題が、技術的に最先端であること、顧客にフォーカスすること、台湾を守ること、台湾人の勤勉で低コストな労働力とサプライチェーンに支えられていること、であったことと比べて、対照的で興味深い。
さらに余談。
昔、仕事で開発品を色々な客先(自動車、大手電気、医療医療機器メーカーなど)に提案しにいったことがある。構造や作り方を根堀葉掘り聞いてきて、こちらの想像をはるかに超える詳細な評価データとともにダメ出しや改善要望を突きつけてくるメーカーもあった。一方で、提案品が、いかにその客先の商品や事業に役に立つのかというプレゼン(たぶん、担当者が社内でその上司への説明に使う)を要求してくるメーカーもあった。今風にいえば、後者のパターンが「顧客価値を最大にする」とでも言うのかもしれないが、自分が買うとしたら前者の会社の商品を買いたいな。
過去の読書記録はこちら
https://cold-darkstar.blogspot.com/search/label/%E6%9C%AC
https://booklog.jp/users/nkon
http://park11.wakwak.com/~nkon/misc/book/
0 件のコメント:
コメントを投稿