2019年6月9日日曜日

『ハードウエアハッカー』


書名は『ハードウエアハッカー』となっているが、いわゆるハッキングではなく、メイカームーブメントにまつわる、とても幅広い話題を扱っている。


https://www.amazon.co.jp/dp/4297101068






中身は、Part1については「EMSで行う小規模量産」のテキストである。通常のメーカー勤務であってもこの内容を身につけるためには2〜3年の実務経験が必要だろう。筆者は手探りで数年の経験、それをもとに行われたMITでの授業を書籍化してあり、短時間でポイントがつかめる。実務初心者も、まずこういった本を読んで知識をつけると良いだろう。製造BOMの話(どんな情報が必要か)、DFM(Design for Manufacture)の話、射出成形の話(現在の標準的な技術で可能なこと、制約)、検査ジグの話、工場の選定と付き合い方。今の担当製品の前任者にも、ぜひ読んでおいて欲しかった。

Part2は山寨について。ここまで明らかに解説されている文書は珍しいのではないか。西洋の法基準に照らし合わせると真っ黒だがテクノロジーの進歩との親和性は高いと筆者は言っている。章の後半は偽部品問題だ。幸い、私はまだ遭遇したことはない。

Part3はオープンソースハードウエアについて。文化的には最も興味がある章だが、仕事の参考書としては有用性は低い。筆者がオープンソースハードウエアビジネスを行ってきた軌跡について述べられている。ここで述べられている主張の中で私が最も合意できるものが「議論するより作ったほうが早い」である。また、筆者の2番目のプロジェクトであるオープンソースラップトップの開発について、詳細が述べられている。ラップトップパソコンという複雑なシステムを小ロットで投資を押さえて、かつオモロイように設計する過程が描かれている。こういったトレードオフはシステム設計の醍醐味だ。広い範囲に渡って細部の実装に至る知識が必要となる。

Part4はリバースエンジニアリングについて。かなり具体的で、その道の人ならではの技が解説されている。

根底に流れるのは、目の前に動いているものがあればその原理を理解せずに入られないという好奇心。それは、幼い頃に実際に動いている製品の回路図を見て、製品には仕組みがあって理解可能だというように刷り込まれた。そのような体験にも関わらず、コンピュータが急速に進歩してマイコンとソフトがブラックボックス化してしまった。しかし、現在の技術の進歩は再びハードウエアを取り扱うことができるようになったこと、その喜び。このへんに共感できるならば、本書を興味深く読むことができるだろう。

過去の読書記録はこちらhttps://cold-darkstar.blogspot.com/search/label/%E6%9C%AC
https://booklog.jp/users/nkon
http://park11.wakwak.com/~nkon/misc/book/

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