2021年8月3日火曜日

車載で行く自転車ルート(地質)

ふだんは自宅から自走で行ける範囲を自転車で走ることが多いが、今シーズンは車載して出先で走ることも増えた。車にキャリアなどが付いていないのでめんどくさがっていたが、やってみれば車載もそれほど大変ではない。ミネソタも、ただ、だだっ広いだけでなく、地域ごとに個性があり、それらの多くは地質から来ていて、コースの特性・景観などに反映されている。

 


 

関連リンクを多目に張っておいた。興味ある方はその先も辿ってみると面白いだろう。

 

 

ミネソタ南東部・ウィスコンシン

ミネソタ州南東部、およびミシシッピ側を挟んだウィスコンシン州の地域は、氷河が削り残した石灰岩台地が広がっており、Driftless Areaと呼ばれる。石灰岩は柔らかく水はけが良い。台地の上は畑になっているが、川が石灰岩を削って、急な谷になっている。道は直線状に設置されることが多く、基本的には台地の上を直進しているが川・谷を超えるごとにアップダウンがある感じになる。川が削った崖は急で、断面は白い石灰岩が見えている。たとえば、ミシシッピ川から台地を横断してAfton に行く時も、ミシシッピ川の標高から台地を登って、最後はセントクロワ川の標高まで降りることになる。

 

下のコースは、Lake Pepin(ミシシッピ側が太くなった部分)を出発してWisconsin側の台地を走るコース。

Pepinから上がったすぐのところに「大きな森の小さな家」がある。アメリカの開拓時代を書いた半自伝小説の作者の生家だ。本のタイトルのとおり、周囲は昔は森だったであろうが、今は開拓されてトウモロコシ畑ばかりだ。

そこからも台地を進む。石灰岩台地の上は森ではなく開拓されて(水はけが良いので)トウモロコシ畑や牧草地になっているが、街は水が入手しやすいので川沿い(谷沿い)にある。街で補給をするためには、いったん、台地から下って、また台地に登るというコースを強いられる。復路に使ったCounty Aは川沿い(釣りも盛んなようだ)で路面も綺麗。秋の紅葉も美しい。

大きな森の小さな家

 
County A(秋)

 

次のコースはLake Pepinのミネソタ側。Red Wingという街を起点に、石灰岩台地の上を走り、Cannon River沿いを下ってくる。Red Wingはブーツで有名。工場・博物館もあるらしい(未訪問)。また、近隣に水はけの良さを利用して葡萄を育てているワイナリーもある。近所には、川が削り残したBluffがいくつもあり、そのうちの一つはFrontenac State Parkとなっていて、川を見下ろす景観がすばらしいキャンプ場となっている。

往路では、Hay Creek沿いを進んでから石灰岩台地の上に上がる。Hay Creekは、石灰岩を通って出てきた湧き水からなる、幅数メートルの小川。夏に冷たく冬に凍らないので、トラウトがたくさん棲息しており、釣りのポイントになっている。

復路のCannon River沿いは有料のトレイルになっている。ネットで支払い可能。上で述べたように、川沿いは石灰岩が削られた急斜面になっていて、その斜面(川の南側、北向き)にWelchというダウンヒルのスキー場がある。近郊では最もコースの距離が取れる。

 

Lake Pepinを一周するTour de Pepinという自転車イベント。一周は100km(72mile)ぐらいなのだが、100mileに合わせるために石灰岩台地の方を通るようになっている。湖岸は平坦だがこのオプションルートはアップダウンがけっこうある。

 

この写真は上記ルートとは違って、もうすこし北のSpring Lake Parkの切通しのトレイルだが石灰岩の崖の様子がよくわかる。


次のミネソタ川(ミシシッピ川の支流のひとつ)沿いのコースは、Driftless Areaからはすこし外れる。ミネソタ渓谷は、ミネソタ川が削ったわけではなく、氷河によって削られた渓谷。そのあとを川が流れている。幅広の渓谷の谷底を川が蛇行している。石灰岩台地から削られた川は幅が狭く、川の際まで崖が迫っているのとは異なる様相であることがわかる。ただ、谷と台地を登ったり降りたりするのは同様だ。


 

 

ミシシッピ川源流部、Brainerd

ミネソタ中部にBrainerdという街がある。St.Paulから見たらミシシッピ川の上流。源流はさらに登ったLake Itaskaだ。このあたりは、氷河の後退によって作られた地形。平らな土地だ。地盤は固く、川が流れても深い谷はできずに蛇行して三日月湖などができる。ケトル湖と言われる湖も多数あるがいずれも浅い。水回りの夏のレジャー、平らな土地を活かした冬のクロスカントリースキーやスノーモービルなどのアクティビティが盛んだ。ミネソタがLand of 10,000 Lakesと呼ばれている由来でもあろう。一方、Driftless Areaにはほとんど湖が無い。

ここにあるPaul Bunyan state trailは、片道100mile。ミネソタでは最長のトレイル。鉄道の廃線跡に出来たトレイルで、街を繋ぐ形になっており、補給も取りやすい。上記のように真っ平らなので、初心者向けだろう。


 

鉄道跡であることがあちこちに展示

浅い湖


 

Duluth〜St. Paul

St.PaulからDuluth, Lake Superior方面に車で向かうときはI-35を北上する。この地域で特筆するべきことは、分水嶺だ。この地域に降った雨のほとんどは、St.Croix川、Mississippi川を通ってメキシコ湾に流れる。しかし、Duluth近郊に降った雨は、Superior湖〜Niagara滝〜St. Lawrence川を通って、大西洋に流れる(メキシコ湾も大西洋だが)。この平な土地のほとんどDuluthの近く、Otter Creekあたりに分水嶺があるのだ。2つの水系で水を融通する水路があるのだが、そこでは魚が行き来しないように電気柵が設置されているとのこと。DuluthにあるGreat Lakes Aquariumでは、淡水湖や近辺の地質について学ぶことができる。琵琶湖博物館とも淡水湖繋がりで連携しているのだろうか。

ちなみにミネソタ北部のRed Lakeから流れ出る川は、メキシコ湾でも大西洋でもなく、カナダを経由して北極海に注ぐ。Red LakeもよいWalleyeの釣り場らしいが、Mississippi川とは水系が異なる。だれかが放流したのだろうか。それとも氷河期以前の水系が異なっていた時期に移動したのだろうか。

DuluthからI-35の旧道であるMN-61沿いのトレイルがWillard Munger state trailだ。Duluthから出発すると分水嶺を超えるまでに、すこし登るが上記のとおり緩やか。道中、見事な切通しや、Jay Cooke state parkを通る。切通しは黒い岩。玄武岩か?

Jay Cooke state parkは、Superior湖に注ぐ急流のSt. Louis川の途中にある公園。急流を利用したカヤックが盛んだ。St. Louis川の上流はアイアン・レンジと言われる鉄の産地。有名なメサビ鉄山も含まれる。その鉄の影響でSt. Louis川の水は赤茶色。鉱山の廃液の影響か、やや泡立って見える。

アイアン・レンジの成立も興味深い。先カンブリア時代に、藻類(ストロマトライトなど)が光合成を開始したおかげで、大気中の酸素濃度が上昇し、鉄が酸化鉄として溶け出して川に流れ出て、海に堆積した。それらが地層となり褶曲して持ち上げられ、氷河で削られて露天掘りが可能になったのが、この地域の鉄山たちだ。Virgineaでは高速道路から露天掘りの鉱山を見ることができる。

そこから南のエリアは、氷河が削った平らな地形。土壌も薄く、針葉樹林や白樺林と牧草地が続く。ただただ続く。

トレイルは林間を走り、木陰が多く、北部にあるので夏でも比較的凉しい。しかし、補給地点の間隔があいていることには注意が必要。 トレイル自体は、DuluthからHincklayまでの70マイル。その先は一般道だが、St.Paul近郊ではMN-61沿いにトレイルがあり、Duluth~St.Paulの距離の合計は150マイル程度。がんばれば1日で行けるだろうか。往路をどうするかが課題だ。


 
切通し。黒い岩

 

Jay Cooke state park。川の水が茶色

 


 

Lake Superior North Shore

Superior湖は、世界最大の面積の淡水湖(塩水湖を含めるとカスピ海に次いで第二位)、淡水貯水量でも世界第三位。 ミネソタだけでなく、ウィスコンシン、ミシガン、カナダにも接する巨大な湖。成因は氷河湖だがMille Lacs湖のようなケトル湖ではなく、U字谷のような深い侵食と氷河が去ったあとの隆起でできていて、深い水深と周囲の切り立った断崖が特徴となる。

ミネソタ川の北岸に沿ってMN-61が通っているがそのさらに北側は山地となっていて、Superior Hiking Trailが設置さてれいる。山地からは南側にSuperior湖の展望、北側にも内陸湖を見ることができることがおおい。氷河が削り残した崖、や谷、それらが堰き止められた内陸湖だ。地質的には玄武岩が噴出して削られたカナダ楯状地。黒い玄武岩や、赤い石が見られる。それらの溶岩噴出岩の中に、地中でゆっくりと冷えた石英塊が含まれていることがある。中が層状に固まっていれば瑪瑙(Agate)で、空洞になっていれば晶洞となる。Agateはミネソタの州の石でもあり、あちこちに関連博物館などがある。もちろん、St.PaulのScience Museumでも見たり買ったりできる。North Shoreは崖の地形が多いが、小石のビーチとなっているところでは、それっぽい岩を割ればAgateを拾うことも珍しくない。

玄武岩は硬いが赤い軽石的な火山噴出物は柔らかく、湖畔では崖を形成している。Splitrock light houseの岬はNorth shoreの代表的な景観だ。その地層がウィスコンシン側にいけば、Red cliffという保護区・景勝地になっていてカヌーでめぐることができる。

自転車的には、MN-61に沿ってGitchi-Gami state trailが建設中だ。 Gitchi-Gamiはこのあたりの現地語で大きな湖ということらしい。2021年現在は部分的に開通している状態。セクション間はMN-61の側道を走ることが多く、交通量や車のスピードなどの点からあまり走りやすくはない。

一番長いセクションはGooseberry FallsからSplitrock light houseを経てBeaver bayに至る15マイルのセクション。トレイルヘッドがstate parkの場合は車の入場料がかかるがBeaver bayのトレイルヘッドは無料の駐車場がある。Beaver bayトレイルヘッドの近くには古風なAgate屋、ミニモールがあるので観光気分を味わえる。

トレイルは、湖畔の崖を反映して、アップダウンや見通しが悪いコーナーが多い。浜や展望駐車場も近いので寄り道をしながら行くのがおすすめだ。

 

 

Beaver bayのトレイルヘッド。トイレ完備

MN-61の切通の脇をトレイルが通る



赤い浜は瑪瑙の採取が期待できる

Gooseberry FallsはMN-61からも見える

玄武岩の下は赤い岩


Beaver BayのAgateショップとMini mall(下)


 

 

追記

Twitterで #美食地質学 というタグで投稿されている記事も、地質を背景とした作物・食文化についていろいろと考察していて面白い。本記事に興味を持った方におすすめ。



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